第一章 動き出した闇

 神秘の世界・ウォルシード――その中のパザック大陸を舞台に、二人の旅は続いている。
 魔族の血を引く青年・リュートと人間の少女・ティリス。
 二人は些細なケンカや幾度かの冒険を重ね、心を通わせ、それはほのかに色付き、
 いつしか『恋』という気持ちへと変わっていった。
 森の中を歩く二人の影。
「ねぇ、リュート!この森を抜ければ町があるみたい」
「半日くらいで抜けられそうだな」
「久しぶりにちゃんとしたベッドで寝られるね?あ、別に野宿がイヤって言ってるんじゃないか
らね!」
 くるくると変わるティリスの表情にリュートは心の中で、まだまだ子供だなと苦笑する。
 そんな感情を完璧に隠してしまうリュートだったが、最近ではそれも崩れつつある。
「ああ、わかってる…」
 自分がどんなに穏やかで柔らかい表情をしているのか、自覚が無い。
 だが、自分が変わりつつある事は気付いていた。
 そして、それをもたらしたのが目の前にいる少女である事も――

 森の奥深くにその城はあった。
 城というには些か規模が小さいが、この様に辺鄙な場所には不似合いな程美しい城だった。
 だが、城内は外観と違って少しばかり薄気味悪い雰囲気だった。
 燭台の炎が紅く揺らめき、影がまるで蠢くように見える。
 城の玉座というべき場所には一人の美しい青年が座っていた。
 傍らに水晶の玉を置き、興味深げに覗き込む。
「面白いじゃないか!あの男が人間を連れて旅をしているだなんて…!
しかし、だ…勿体無いよね…あれ程の力を持っていながら、それを隠して生きるなんて…
まるで誰かさんの様に…ねぇ?ジェイド…」
 美貌の青年は傍に控える紅い髪の青年に声をかけた。
 その声には揶揄するような響きがあり、明らかにそれは挑発だった。
「くだらない戯れは止めて下さい、アルディアス様」
 穏やかな声で答える。まるで何も感じていない様にさえ聞こえる。
「そう?事実じゃない。じゃあさ、こうしようよ。僕は彼の力が欲しい。
君は僕の信頼が欲しい。そうでしょ?」
「ええ」
「ならやる事は一つだ。あの男、リュート=グレイを魔族として覚醒させるんだ!」
「はっ!」
 ジェイドは一礼するとその場を去った。
 その後ろ姿を見送りながら、満足げにアルディアスは笑んだ。
「そして自らの傷口を広げるがいいさ。どちらにせよ…僕にとっては良い余興だ…」
 それは禍禍しいほどに美しい支配者の微笑だった。

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